テクノロジー

フォトニック結晶ファイバ(PCF)の構造や用途とは

■フォトニック結晶ファイバ(PCF)とは

 フォトニック結晶ファイバ(PCF:Photonic Crystal Fiber)とは、光ファイバ断面に空孔や高屈折率ガラスを規則的・周期的に配列した構造を持つもので、微細構造ファイバ(Micro-Structure Fiber)やホーリー・ファイバ(HF:Holey Fiber)とも呼ばれます。

 PCFは、光の伝わり方によって屈折率導波型とフォトニック・バンドギャップ(PB:Photonic Bandgap)型に分けられます。屈折率導波型は通常使われている光ファイバと同じくコアとクラッドの境界面で全反射を繰り返しながら伝わっていくもので、多くはクラッド部に空孔が規則的に配列された形をしています。一方、PB型PCFは、ブラッグ反射※1により光を閉じ込めて導波するもので、空孔や高屈折率部材の大きさ・配列間隔を高精度に制御する必要がありますが、コアが空孔であっても光を伝送することができます。

 屈折率導波型PCFは、エンドレス・シングルモード(ESM:Endlessly Single Mode)ファイバ、スーパーコンティニウム(SC:Super Continuum)光発生用ファイバ、任意の波長で波長分散がゼロとなるゼロ分散ファイバ偏波保持ファイバ、急峻な曲げに対しても損失増加を抑えられる局内配線用ファイバ、大口径なシングルモードファイバなどの用途に使用されています。

[用語解説]

※1 ブラッグ反射 : 結晶のような周期的構造を持つ物質に光を当てると、結晶内で散乱した光が入射角によって強め合ったり打ち消しあったりする現象です。光の波長と空孔や高屈折率材による周期的構造部の大きさによって、光を閉じ込めることができるようになります。

■フォトニック結晶ファイバ(PCF)の構造

●エンドレス・シングルモード(ESM)用PCF

 可視光から近赤外にわたる広い波長範囲でシングルモード伝送が可能なエンドレス・シングルモード(ESM)ファイバには、屈折率導波型のPCFが使われます。通常のステップインデックス型ファイバでは、下式で定義される規格化周波数(V値とも言われます)が2.4以下となるときにシングルモード動作となります。

\[V = \frac{2\pi{a}\sqrt{{n_{core}}^2 – {n_{clad}}^2}}{\lambda}\]

 ( a:コア半径, ncore:コアの屈折率, nclad:クラッドの屈折率, λ:波長 )

 通常のファイバでは、コアとクラッドの波長に対する屈折率の変化(1.45~1.46)はほとんど同じなので、√の中の値は波長が変わってもほとんど変化しません。このため、使用する光の波長が短くなるとV値が2.4を越えてしまいシングルモードではなくマルチモードとなってしまいます。これに対して屈折率導波型PCFでは、クラッド部に空孔(屈折率1.00)があるために波長に対するクラッドの実効屈折率だけが大きく変化します。このため、屈折率導波型PCFのコアとクラッドのとの実効的な屈折率差√(ncore2-nclad2)は、短波長では小さく、長波長になると大きくなります。その結果、屈折率導波型PCFでは短波長でも長波長でも√(ncore2-nclad2) / λの値があまり変わらなくなります。この特性を利用し、クラッドに挿入する空孔の大きさや配列間隔を調整することで、広い波長範囲にわたってシングルモード動作ができるようになります。(図1. 参照)

 

図1.屈折率導波型PCF

 
 

●スーパーコンティニウム(SC)光発生用PCF

 図1で代表的な構造を示していますが、広い範囲にわたって異なる波長のレーザ光を同時に出すことができるスーパーコンティニウム(SC)光の発生にも屈折率導波型PCFが使われます。PCFにフェムト秒レーザなどの高強度の超短パルス光を入射させると、コアガラス内で非線形現象が起こり、非常に広い範囲にわたって波長の異なるレーザ光が発生します。コア内での非線形現象を起こしやすくするためには、狭い領域に光パワーを集中させることが必要になります。そのためには、光パワーの集中度の指標であるモードフィールド径※2(MFD:Mode Field Diameter)を小さくするとともに、使用波長での分散をゼロにすることが有効となります。通常のシングルモードファイバでは波長が長くなるとモードフィールド径も大きくなりますが、PCFではクラッドに挿入する空孔の影響によって波長が長くなってもあまり大きくなりません。また、PCFはクラッドに挿入する空孔径とその配列間隔によって使用する波長での分散をゼロにすることができるので、PCFを使うことで非線形性を高めることになり、SC光発生に利用することができます。

[用語解説]

※2 モードフィールド径(MFD) : 情報通信用として通常使われるステップインデックス型のシングルモードファイバでは、光電力はコアの中心をピークとした正規分布(ガウス分布)形で伝わります。光電力のコア内への集中度を表す指数として、ピークの1/e2となる(光電力の86.5%が集まる)ところの直径をモードフィールド径(MFD)といい、これが使われます。ステップインデックス型ファイバのモードフィールド径2wは、近似的に

\[2w\simeq2a(0.65+\frac{1.619}{V^{3/2}}+\frac{2.879}{V^6})\]

で表されます。モードフィールド径を小さくするには、コア径を小さくすることが有効です。ここでのVは規格化周波数(またはVパラメータ)です。

 

以上の2種類の用途のPCFと通常のSMFの特性の違いを表1に示します。

 

表1.典型的なESM用PCF、SC光発生用PCFと通常のSMFとの特性比較

  ESM用PCF SC光発生用PCF SMF
ファイバ外径 125μm 125μm 125μm
コア径 7~10μm 2~5μm 9~10μm
伝送損失 0.5dB/km 1~5dB/km 0.2dB/km
ゼロ分散波長 0.9~1.6μm 0.9~1.6μm 1.3μm
ESM 0.9~1.6μm

●フォトニックバンドギャップ(PB)型PCF

 通常のシングルモードファイバでは、1.5W程度の大きな光パワーを入射すると光ファイバが溶けたり、プラズマが発生したりするので、波長多重伝送や工業用大パワーレーザ光伝送などで問題となります。特に、大パワーを必要とする加工用レーザ光などの伝送では、コアガラスが溶けてしまうのを避けるため、空気をコアとした中空コアPB型PCFなどが使われます。(図2. 参照)

 

図2.フォトニックバンドギャップ(PB)型PCF

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